レコードと並ぶアナログオーディオの頂点と言えるのがオープンリールデッキ。アナログ録音機としてはプロユースにも使える実力を持ちながら、様々な理由から敷居はそうとう高い。2020年の今、改めてオープンテープを始める前提で、オープンデッキと向き合ってみたい。
「これからオープンリールを始めるという人はあまりいないと思いますよ。デッキの需要はそこそこあるのですが、大抵はすでにお持ちのライブラリがあって、それらをもう一度聴いてみたい、という方がデッキを手に入れたり修理したり、というケースですね」と教えてくださったのは、ステレオ時代Vol・9のチューナー特集でお世話になった小川敦氏。
小川氏はもとトリオ(=ケンウッド)でFMチューナーのMPXの開発をされていた技術者。MPX回路では第一人者として知られるが、引退された後は、個人でオープンリールデッキの修理などを手掛けている。
ちなみに正直に打ち明けてしまえば私はオープンリールデッキに触ったことがない。欲しいと思ったことは何度もあるし、「オープンリールデッキを開発してました」という技術者の方には何人もお会いしてる。「ツートラサンパチ」という言葉には憧れもある。があまりにもオープンテープについて何も知らないので、どんな機種にどのくらいの投資をすれば、どんなオープンリールライフが送れるか、というビジョンがまったく描けないのだ。
そこで今回、小川氏に基礎から教えていただこうと意気込み、ご自宅に押しかけた。そこでいただいたのが冒頭のセリフだったのだ。
「私もそうですが、当時はエアチェックをオープンで録って、カセットテープに編集してクルマや外出先で聴くというのが普通でした。いわばマスターとして録音しておくわけです」。だからご自身のライブラリを再生する、というのが今どきのオープンリールデッキの大きな役目となる。オープンテープの説明をしてくださりながら、華麗な手付きでテープを引き回し、テープの端を巻取り側のリールに装着する。その間わずか2、3秒。とてもかっこいい。素直にそう感想を述べると「これがオープンテープの儀式なんですよ」と小川氏。
そう、今どき儀式のあるメディアは趣味になる。レコードはもちろん、カセットやCDだって、マウスやタップで一発演奏というわけにはいかない。そこに趣味の趣味たる意味が生じる。そういった意味でオープンテープは完全に趣味の領域なのだ。
〈続きは「ステレオ時代Vol.16」を御覧ください〉